IT業界はピラミッド構造、つまり下請け構造と呼ばれています。さまざまな企業がIT化を図り、これまではITとなんの関係も無かった小売業者などでもIT化が進んでいます。つまり需要はとても多く、今後も増えていくことが想像されます。
これからは企業でバンバンパソコンを駆使し、スマホを使いこなしていた世代が高齢化しハッピーリタイアを迎える時代。高齢化社会にもIT化はどんどん広がっていくでしょう。
それなのになぜ、IT業界はピラミッド構造、下請けに下請けが重なり、「儲からない業界」となっているのでしょうか。IT長者が日々テレビをにぎわせているその裏で、どんな世界が広がっているのでしょうか。
IT業界の構造の仕組み
まずはIT業界のピラミッド構造の仕組みについて詳しく見ていきましょう。どんな企業が積み重なっているのでしょうか。
一番上は大手発注者・企業
一番上にいるのは、大手の発注者である大企業等です。自社ではIT関係の開発を行っていない企業、たとえば銀行のシステムなどが大型発注と言えるでしょう。全国をネットワークで結ぶシステム開発になると、発注元の大手企業と一次受け企業が打ち合わせを行い、どういったシステムを構築するかの概要を話し合います。一次受け企業はその下の下請け企業への振り分けも考えつつ、納期なども決定します。
二番目は一次請け企業
二番目に位置する一次受け企業は、大手企業から直接発注を受けます。案件がちいさなものであれば、この企業が直接システム開発を行います。一次受け企業にも腕利きのプログラマーやエンジニアがたくさん所属しているので、短い納期の小さな案件などは自社でこなせてしまうのです。
しかし大規模システム構築などの仕事になると、自社だけでは仕事をこなすことができません。そこで細かなシステム開発に関する仕事は二次受け企業以下へと進めていきます。しかし発注企業からもっとも多くの報酬を受け取るのはもちろん一次受け企業なので、その下につく下請け企業で働くエンジニアたちはこの「一次受け企業」につらなる企業への転職や自分で仕事が取れる独立を狙ってステップアップを図ります。
三番目は二次請け企業
すでに三番目になってしまいますが、ここで待ち受けているのが二次受け企業です。ここではシステム開発の基盤となる、システム概要をもとにしたシステム仕様作成などを行います。細かな仕事が多く、仕事量と仕事にかかる時間が多いにも関わらず、一次受け企業と比べると賃金が安いため、不満が募りいわゆる「ブラック」と呼ばれる企業が増えてきます。
非常に大きな案件になるとここでも終わらず、三次受け企業へと仕事が送られることになります。これだけでは終わらない場合は、さらに下請け企業へと仕事が回されます。二次受け企業が他の案件で手一杯という場合は、そのまま三次受け企業以下へ丸投げされることもあります。
四番目は三次請け企業
三次受け企業は孫請けとも言われており、その下にはさらに四次受け企業も存在しています。零細企業や個人事業主への発注になることもあります。作業量は二次受けより三次受けと、ピラミッド構造の下に行けば行くほど多くなりますが、報酬は少なくなり、ブラック化がひどくなっていくのが定説です。
IT業界の構造のトップに位置する企業と依頼の内容
IT業界の構造のトップに位置する企業には、どんな企業があるのでしょうか。そしてそこから依頼される仕事の内容についてご紹介します。
銀行などの金融システム
よくニュースでも話題になるのが銀行などの金融システムですね。たまにシステムのメインテナンスのためにATMが使えなくなったりします。また最近では実店舗をほとんど持たないネット銀行も増え、多くの資産をネット上で管理している人も増えています。
ネット上で個人の資産管理ができたり、投資や保険商品などの売買といった資産運用ができたりする金融システムの開発は常に進化を求められています。クラウドファンディングと呼ばれるサービスや、フィンテックと呼ばれるサービスなど多岐にわたります。
販売業などの受発注システム
現在、多くの企業が受発注業務をシステム化しています。なんとつい1、2年前まで、5割もの企業が受発注にFAXを使用していたというほど、まだIT化が進んでいない業界でもあるのです。しかし販売業にとって受発注業務は非常に重要なネックです。
そこで今、大きな販売業者から個人販売店まで、受発注にITシステムを導入するところが増えつつあります。これまで個人情報の流出を恐れて人の目と手で受発注をしていた企業も、システム導入による一括自動管理でより情報管理が堅牢になれば、どんどん変化してゆくでしょう。
医療関係の医療システム
医療関係のシステムには、企業としての病院内のシステムと、医療系のシステムの2通りあります。医療系システムには、富士フィルムグループの診療支援統合システムYahgeeなどがあります。
電子カルテの普及も医療関係のシステム化のひとつですが、さらに電子カルテと連動して医療現場の紙媒体をすべて統合、関連付けて管理できるシステムです。こういった医療業務がスムーズに行われ、医薬品の誤投与や手術の際の患者取り違いなどを防ぐためのシステム開発努力が日進月歩で進んでいるのです。
IT関係のWebサイトの構築など
IT関係といえばWEBサイト構築ですね。WEBサイト構築といっても、既存のサイトに埋め込んでいけば簡単に自分のサイトが作れるサービスから、独自のサイトを構築するものまでさまざまです。
独自のサイトを構築するものだと、システム開発チームの仕事となります。プログラマーやウェブデザイナーによって作られた枠組みに、下請けから上がってくる写真や記事などを埋め込み、うまく作動し検索エンジンの上位にあがるようにSEOの調整を行います。
IT業界の構造の一次下請けについて
IT業界のピラミッド構造の一次下請けについてご紹介しましょう。聞いたことはあるけれど、具体的にはよく分からない、という方も多いのではないでしょうか。一次下請けには驚くような大企業が並び、多くのエンジニアにとって憧れの就職先となっています。しかし、すでにこの時点でブラック化が進み問題視されている企業もあります。
SIer
SIer(システムインテグレーター)は、システム開発行う会社のことです。一次下請けの中でもトップに位置し、発注元の企業が求めるシステムを構築し、導入し、スムーズに作動するかテストを行って納品となるまで、すべてを請け負います。その中で生まれるこまごまとした仕事が、二次下請けや三次下請け以下へと送られていくのです。
大手のSIerとなると、電通やトラストテックなどそうそうたる大企業の名前がつらなります。もちろん平均年収も高く、上位になると年収1千万を超えてきます。ただ、古い日本のSIerだと実力・成果主義ではなく、年功序列というデメリットもあります。
ベンダー
一般にベンダーというと「販売会社」「販売店」という意味があります。自動販売機もベンダーです。IT業界のベンダーは、システムを構築しサービスとして提供する会社を指しています。メーカーとほぼ同義で使用されます。
自社開発したシステムやソフトウエアをパッケージやクラウドなどで販売する、製造元となっている企業です。野村総研や三菱総研・NTTデータや伊藤忠テクノソリューションズなど、こちらもそうそうたる企業が名を連ねます。
スキルアップに役立つベンダーニュートラル資格
ご紹介したピラミッド構造のトップや一次下請けに君臨するような企業を目指しスキルアップを狙うために、さまざまな資格を取得するべく努力をする人もたくさんいます。特にスキルアップに役立つベンダーニュートラル資格をご紹介します。
ベンダーニュートラル資格とは、どこのベンダーにも依存しない資格です。製品ありきの資格が多いため、あまり種類は多くありません。
LPIC(Linux技術者認定試験)
オープンテクノロジー技術者認定機関による試験です。オープンソースの普及と技術者育成のために行われるようになった試験のひとつです。IT分野はさまざまな業界に関わっているため、日々変化を続けるビジネスシーンに素早く対応できる人材の育成も目指します。
ITIL認定資格
ITIL認定資格は英国AXELOSが認定するTI関連の資格です。4段階に分かれており、入門者向けのファンデーション、中級者向けのインターメディエイト、上級者向けのエキスパート、その上のマスターと進んでいきます。まずはファンデーション資格の認定を受け、そこから上を目指します。ITサービス戦略やサービスデザイン、サービスの改善などを、広く理解しているかどうかをチェックする認定資格です。
(参考:ITIL認定資格|ミントテック)
UMLモデリング技能認定
UMLモデリング技能認定試験は、特定非営利活動法人UMLモデリング推進協議会が主催する認定試験です。システム開発のモデル構築などに欠かせないモデリング技術を持つ技術者養成や技術向上のために行われています。
資格はレベル1からレベル4までに分けられ、すべてのUMLモデリングスキルを網羅できるようになっています。それぞれに認定試験が設定され、レベル1から段階的に合格していく必要があります。
.com Master
ドットコムマスターは、NTTコミュニケーションズが主催しているICTスキル認定試験です。初心者向けのドットコムマスターベーシックと、中級・上級者向けのドットコムマスターアドバンスの2種類があり、目的に合わせて受験できます。
ICTとはinformation and communication technologyの略で、情報通信技術と日本語訳されます。クラウド活用やネットやセキュリティ技術などのスキルを幅広く学ぶための資格試験で、全国いつでも200か所以上で受検することができます。NTTコミュニケーションズが主催していますが、ベンダーフリーの検定です。
PMI PMP
PMIジャパンチャプターが認定している資格試験です。PMPとはプロジェクトマネジメント・プロフェッショナルの略で、アメリカのPMI本部が資格認定を行っています。プロジェクトマネジメントに関する知識や経験がプロフェッショナルとしてふさわしいものかを問う試験です。
プロジェクトマネジメントに関する資格として広く知られるようになっており、マネジメントスキルをはかる試験としてIT業界をはじめ建設業など多くの人がトライしています。
スキルアップに役立つベンダー資格
スキルアップに役立つベンダー資格をご紹介します。大手ベンダーが主催する資格試験が多いので、転職によるステップアップを目指す方にもおすすめです。
Oracle認定Javaプログラマー
Oracle認定Javaプログラマーは、アメリカのOracle(オラクル)社が主催しているJava言語に関する技能についての認定試験です。Javaは世界で使用されており、開発元だったサンマイクロシステム社がオラクルに吸収合併されたためオラクルが試験も行っています。
試験はブロンズ・シルバー・ゴールドの3段階に分かれます。シルバー以上の試験に合格すると、全世界共通で通用する資格として認定されます。Javaに関する試験で最も認知度が高く、受験者も多い人気のある資格です。
CCNA
CCNAとはCisco Certified Network Associateの略で、シスコシステム社が認定しているベンダー資格です。シスコシステムの認定を受けたシスコ技術者はネットエンジニアとしての技術を世界的に証明できるとされています。世界的に認知度の高い資格といえます。
シスコ技術者認定は5グレードに分かれており、エントリー・アソシエイト・プロフェッショナル・エキスパート・アーキテクトからなります。CCNAはアソシエイトに位置します。
⇒CCNA Routing and Switching|Cisco
MCP
MCPとはマイクロソフト認定プロフェッショナルというマイクロソフトの製品やテクノロジー、ソリューションなどについての知識や技術を問われる試験です。
マイクロソフト認定ソリューションアソシエイトやマイクロソフト認定ソリューションエンジニア、マイクロソフト認定ソリューションデベロッパー、マイクロソフトスペシャリスト認定資格に必要となるすべての試験が含まれています。
MCSE
MCSEは、マイクロソフト認定ソリューションエンジニアの認定試験です。MCP資格の一角を担うエンジニアとしての資格で、全世界で認められているマイクロソフトで認定されたソリューションエンジニアとして、ステップアップするために役立つ資格です。
IT業界の構造のまとめ
IT業界はピラミッド構造がはっきりとしている業界です。ピラミッドのトップに近ければ近いほど賃金も高額になり、企業名も著名で、エンジニアとして就職することを願う人も数多くいます。しかし大企業への就職の道は狭き門で、ステップアップとしての転職先としても大変人気があります。
しかし二次下請け、三次下請けと下部階層になるほど報酬は減ってゆき、仕事量だけが増えてゆく傾向にあります。つまりブラック化が進んでいくということになります。仕事によっては零細企業の五次受け、六次受けということもあり、これがエンジニアのステップアップ、上昇志向につながっているともいえます。
エンジニアとして少しでもピラミッド構造の上部へ食い込むためには、広く世界で通用するベンダー資格やベンダーニュートラル資格を取得し、スキルアップを図るという方法もあります。自分が進みたい方向性によっても必要な資格・スキルは変わるので、どういった方向のシステム構築に携わるかやシステム需要を考えながら、スキルアップを図っていくと良いでしょう。