個人事業主が扶養に入ることができるということを一度は耳にしたことがあるという人もいますが、実際に個人事業主で配偶者の社会保険の扶養に入ることができるかどうか知りたいという人もきっと多いはずです。個人事業主が扶養に入ると、控除面などにおいて様々なメリットがあります。
今回は、所得税や社会保険における違いや、配偶者と扶養との関係について紹介します。
個人事業主が扶養に入るメリット
所得控除が適用され所得税や住民税の負担が減る
個人事業主が扶養に入るメリットとして1つ目に挙げられるのが、納税者である配偶者に所得控除が適用され配偶者の所得税や住民税の負担が減るということです。所得税を例に見てみましょう。年間の所得額が38万円の個人事業主(妻)が年収400万円の配偶者(夫)の扶養に入った場合、配偶者(夫)は38万円の配偶者控除が受けられます。配偶者(夫)の所得税額は次のように計算できます。
配偶者(夫)の給与所得金額:収入金額 - 給与所得控除額
→ 400万円 - (400万円 × 20% + 540,000円) = 266万円
【配偶者控除を受ける場合】
配偶者(夫)の課税所得金額:給与所得所得金額 - 所得控除額
→ 266万円 - 38万円(基礎控除)- 38万円(配偶者控除) = 190万円
配偶者(夫)の所得税額:課税所得金額 × 税率 - 控除額
→ 190万円 × 5% - 0円 = 9万5,000円
※9万5,000円×2.1%の復興特別所得税を加算して9万6,900円
【配偶者控除を受けない場合】
(266万円 - 38万円) × 10% - 9万7,500円 = 13万500円
※13万500円×2.1%の復興特別所得税を加算して13万3,200円
配偶者控除を受けない場合の所得税額は13万3,200円となり、3万6,300円の節税になります。住民税も所得税と同様に配偶者控除や配偶者特別控除があるので、扶養になって控除を受ければ配偶者の税額を安くできます。
このように所得控除が適用されることで所得税や住民税の負担が減るのは、非常に大きなメリットの1つです。
保険料を払わずに済む
2つ目に挙げられるメリットは、保険料を払わずに済むということです。個人事業主が支払う国民健康保険の負担額は加入している自治体や保険組合、所得額、年齢に応じて人によって異なります。例えば、配偶者の扶養に入ることができる年収129万円の人(40歳未満)が東京都江戸川区の国民健康保険に加入しているとすると、年間約15万円の国民健康保険料を支払う必要があります。
また、個人事業主は国民年金第1号被保険者として月額16,410円(令和元年度)の保険料を支払わなければなりません。しかし、扶養に入ればこの年額約15万円の国民健康保険料と年額約20万円の国民年金保険料を負担しなくてもよいのです。個人事業主と言うと保険料を含めた何から何まで全て自己負担だというイメージですが、扶養に入ることで保険料を払わなくて済むようになります。
福祉制度で優遇を受けられる
そして3つ目に挙げられるのは、福祉制度に置いて優遇されるということです。具体的にいうと、児童手当や医療費助成など自治体を扱う福祉制度です。これらの福祉制度には所得制限限度額が設けられています。児童手当を例に挙げると、共働き世帯で子どもが1人の場合、扶養親族等の数が1人なので所得制限限度額は660万円です。所得額が限度額より低ければ1万円か1万5,000円の児童手当がもらえるのですが、もし660万円以上の所得があったら特例により5,000円しか支給されません。しかし個人事業主が配偶者の扶養に入っていれば扶養親族等の数が1人増え38万円分限度額が引き上げられます。所得額がこの範囲であれば、本来の額の児童手当を受け取れるということです。
もちろん個人事業主も児童手当を受け取ることができます。しかし原則として収入の高い方が支給対象となっています。そのため、配偶者の方が収入が高くかつ所得制限限度額を超えているという場合には、個人事業主が配偶者の扶養になることによって福祉制度の恩恵を最大限に受けられる可能性があります。
個人事業主が扶養に入るときの2つの注意点
では次に、ここでは個人事業主が扶養に入る時の注意点についてお話ししていきます。個人事業主が扶養に入ることで得られるメリットにはいくつかあるということをお話ししましたが、個人事業主の扶養において実際に所得税と社会保険を混合してしまう人は多いものです。
では一体、所得税と社会保険の注意点にはそれぞれ具体的にどのようなことが挙げられるのでしょうか。
所得税と住民税の3つの注意点
所得税における注意点として挙げられるのは、年収を103万円に抑えることに加えて青色申告をしておくということ、そして住民税については自治体によって非課税となる基準が異なる場合があるということです。
やはり所得控除の面を考えても、年収を103万円に抑えることがとても大切になります。これは給与所得者が扶養で控除を受けることができる範囲となっています。そして年収に加えて青色申告をしておくことも重要です。
青色申告をしておくことで、実際の経費と控除額65万円を収入から引くことができるので所得が38万円以内になりやすくなります。所得税と控除は切って離せない関係にあるので、これらの注意点に気をつけましょう。
また、住民税は非課税となる所得額が自治体によって異なることがあります。そのため、配偶者の扶養に入っていて個人事業主が所得税を払う必要がなくても住民税は支払わなくてはならないケースもあります。非課税となる基準や配偶者控除を受けられるかどうかについては、近くの自治体に足を運んで直接聞くのも良いでしょう。
社会保障の3つの注意点
次に、社会保障における3つの注意点です。もしもあなたが健康保険などの社会保障を受けたいのであれば、年収を130万円以内に抑えた方が良いです。この理由は非常に単純で、社会保障の面において扶養を受けることができる範囲というのが年収130万円以内だからです。
ここで注意しなければいけないのは、青色申告の控除額65万円は社会保障の扶養に入る要件に適用されないということです。所得税は青色申告特別控除があることにより課税所得額を大幅に抑えることができるため、扶養に入る要件を充たしやすいと言えます。しかし社会保障は所得ではなく年収を基準とするのに加え青色申告特別控除の適用もありません。そこで社会保障の扶養に入るためには、年収を130万円未満に収めるよう調整することが必要です。
また注意点として3つ目に挙げられるのが、必要経費が限られているということです。これは通信費がメインになる仕事をしている人には特に知っておきたい項目です。というのも実は、通信費がメインのクラウドソーシングなどといった仕事をしている人は経費がゼロとしてカウントされるからです。
社会保障で適応されている必要経費は、主に仕入代金や原材料費、家族以外の人件費や商品配送費が挙げられます。これら以外の面で経費が必要なのであれば、一度考え直してみましょう。
収入を抑えても扶養から外される場合
基本的に扶養というのは収入を抑えることで受けることができるというイメージがあるのですが、実はどれだけ収入を抑えても配偶者が高所得だった場合、扶養から外されることもあります。
また配偶者控除という面でも、大きな影響を及ぼします。というのも収入を抑えたとしても扶養する側の合計所得金額が1000万円(給与所得だけの場合だと年収1220万円)超になると、配偶者特別控除だけでなく配偶者控除も対象外になってしまうことがあるのです。
このように、仮に収入を抑えても配偶者が高所得者であった場合は扶養から外されることがあるので、注意しなければいけません。
【まとめ】収入が低い内は扶養に入ろう!
個人事業主が扶養に入ることで、様々なメリットがあるということがわかりました。実際に個人事業主になっても高所得者であると、扶養に入ることはできません。また仮に個人事業主の収入が低くても配偶者の所得が高いと、扶養を外されたり入らないと損をすることもあります。
もしも個人事業主で扶養に入ろうと考えようとしているのであれば、保険料は高いので開業したばかりの人は特に社会保障の扶養に入ることができるのであれば入るのがおすすめです。
ぜひ今回のお話を参考に、一度扶養について考えてみてくださいね。