企業会計の基本は発生主義が原則です。しかし、小規模事業者やフリーランスの中には記帳方法が簡単な現金主義で日々の帳簿を記入している方も多いのではないのでしょうか。
この記事では、発生主義と現金主義の違いや現金主義で行う確定申告の特例について解説していきます。
発生主義と現金主義とは?
会計処理には「発生主義」と「現金主義」の2種類があり、それぞれの処理方法を解説していきます。
利益や出費が発生した時に記帳するのが現金主義
現金での支出や収入があった時点で記帳するのが現金主義です。
たとえば、2月1日に商品を仕入れ、支払いが3月1日だとします。記帳するのは実際に支払われた3月1日です。実際に現金の動きがあった場合に記帳されるため、事業で発生した現金の動きを把握しやすく確実性の高い会計方法だといえるでしょう。
現金主義は簡単な会計処理の方法
現金主義は会計処理方法の1つです。そのため、現金や預金の動きを把握しやすいといったメリットはあります。しかし、現金主義では現金や預金の動きのみの記帳となるため、売掛や買掛といった信用取引などの会計処理はできません。
また、長期的な管理を必要とする高額な資産を購入した場合は耐用年数に応じた減価償却ができず、正確な資産価値を記帳する会計処理ができません。したがって、現金主義は簡単な会計処理であり、現金主義で帳簿をつけている企業はほとんどないでしょう。
発生主義は企業会計の一種
発生主義は企業会計の一種であり、支出や収入が確定した時点で記帳します。
現金主義と異なり、現金や預金だけの動きだけではなく支出や収入が確定した時点の動きも記帳します。そのため、現金以外の動きも把握しやすくなります。より正確に企業の「資産」や「負債」の状況を把握できます。
企業は事業年度ごとに経営状況を計算します。その際に、発生主義の会計処理が用いられます。企業会計の原則に「発生主義の原則」があり、発生主義による記帳が義務付けられているのです。
支出や収入の必要があった期間に計上するのが発生主義
発生主義は支出や収入の必要があった期間(経済的事実)に計上します。2月1日に商品を仕入れ、支払いを3月1日にするとしましょう。発生主義では支出が確定した時点で記帳するため2月1日に帳簿付けを行い、実際に支払われた3月1日にも帳簿を付けます。
発生主義は現金や預金以外の支出や収入も記帳するため、現金主義よりも正確に財務状況を把握できるのです。
個人事業主はどちらの方が得なの?
会計処理に現金主義と発生主義の2種類があることを解説しましたが、個人事業主はどの会計処理がお得なのでしょうか。解説していきます。
確定申告の控除を受けるなら発生主義の方が得
確定申告の方法には「白色申告」「青色申告」の2種類があります。青色申告を選択した場合、「10万円控除」か「65万円控除」のどちらがを選択可能。
10万円控除の場合は現金主義会計での帳簿付けができ、65万円控除の場合は発生主義での帳簿付けが必要です。しかし、平成30年度税制改正大綱では青色申告特別控除額が65万円から55万円に引き下げられます。ただし、以下のどちらかに該当する場合は65万円の控除額のままです。
- 電子申告を行う
- 電磁的記録で帳簿の記録・保管を行う
控除額の引き下げにより、国民健康保険に加入している方は所得が増えることで保険料に影響がある場合もあります。
3つの条件を満たせば現金主義でも構わない
発生主義は複式帳簿で日々の帳簿を記入しなければいけません。専門的な用語も多く、多少の経理の知識がなければ帳簿を正確に記入できないでしょう。しかし、下記の3つの条件を満たせば現金主義で確定申告できます。
- 青色申告であること
- 前々年の合計所得が300万円以下の小規模事業者であること
- 事前に税務署へ届け出を済ましていること
現金主義の所得計算特例の3つの条件について
現金主義での帳簿が認められる特例があります。その特例には3つの条件が必要であり、それぞれを解説していきます。
条件①:青色申告を行う事
青色申告が可能であれば「現金主義による所得計算の特例」を受けることができます。下記が青色申告が可能な条件です。
- 不動産所得者
- 事業所得者
- 山林所得者
個人事業主だけではなく、給与所得者で上記の収入がある場合は青色申告対象者です。青色申告は複式簿記で記録しなければいけません。
条件②:前々年の合計所得が300万円以下の小規模事業者である事
現金主義の所得計算特例を受けるためには、2年前の合計所得が300万円以下でなければいけません。
所得=収入ー経費
しかし、事業専従者給与(控除)の額を経費に算入しない金額が300万円以下でなければいけないため注意が必要です。
条件③:3月15日までに特例を受けることの届出書を提出する
初めて特例を受ける場合は「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を税務署に提出しましょう。この届出書は、適用を受ける年の3月15日までに提出します。また、その年の1月16日以降に開業した場合は、開業の日から2ヶ月以内に届け出を提出しなければいけません。
現金主義から発生主義に変更した時にやるべき事
現金主義から発生主義に変更する場合、帳簿の記入の方法が変わります。そのために気をつけるべき点を解説していきます。
変更前の売上合計は11カ月で計上する必要がある
現金主義から発生主義に変更する際に気をつけるべきポイントがあります。変更前の売上合計は11ヶ月で計上しなければいけないということ。たとえば、H30年は現金主義でありH31年から発生主義に変更したとしましょう。
H30年12月に売上があり、入金はH31年1月の場合は現金主義では記帳しません。従来の方法で記帳を行っておきます。
翌年の確定申告で1カ月分多く売上を計上しなくてはならない
そして、H30年の売上は確定申告していないため宙に浮いた状態です。これを解消するためには、H31年の確定申告の際にH30年12月売上H31年1月入金の売上を追加計上する形となります。そのため、H31年確定申告分の売上は13ヶ月となり、1ヶ月分多い形となるのです。
現金主義の場合、開業した年に1ヶ月分売上を少なく計上しています。そのため、これまでの申告額をトータルで見ても売上を1ヶ月多く計上していることにはならないのです。
費用計上のタイミングを知る事が重要です!
現金主義と発生主義では費用計上の方法が異なります。発生主義の会計処理を行う場合に気をつけるべきタイミングを解説していきます。
取引発生時と実際の収支があった時の2回帳簿を付ける事
現金主義の場合、現金の動きがあった時点で帳簿の記入をしていました。しかし、発生主義では現金の動きは関係なく、収入や支出の事実が確定した時点で帳簿を記入しなければいけません。つまり、1回の帳簿の記入から2回帳簿を記入することになります。記入忘れがないように注意しましょう。
現金主義からの変更時期によっては税負担が重くなる
現金主義から発生主義へ変更した場合、翌年の確定申告時に前年度分の売上を追加計上しなければいけません。そのため、タイミングによっては税負担が重くなることに留意しましょう。
【まとめ】発生主義と現金主義
現金主義は現金の動きに合わせて記帳を行います。一方、発生主義は支出や収入確定した時点で記帳しなければならず、経理の基礎的な知識が必要な記帳方法です。しかし、正確な財政状態の把握には発生主義の会計処理が適切です。また、発生主義で確定申告をすると65万円の控除が受けられます。
現金主義から発生主義へ会計処理を変更する際は、帳簿の記入方法に気をつけ最適なタイミングで変更するようにしましょう。