社会保険は、サラリーマンであれば会社で加入して手続きしてくれますが、個人事業主は自分で加入しなければなりません。特に、個人事業主1年目の人にとっては、本業以外の運営に関わることには戸惑ってしまいますよね。
この記事では、個人事業主が加入する社会保険4つについて、加入条件と負担額の割合をまとめます。さらに、加入期限や書類の提出先も紹介します。自分が加入するべき保険の確認と手続きに役立ててください。
個人事業主にとっての社会保険に含まれる4つの保険
まずは、個人事業主が加入する4つの社会保険を紹介します。
1.公的医療保険
公的医療保険とは、加入者や扶養家族が医療提供を受けた場合に、公的機関が医療費の一部を負担してくれる制度です。日本では、国民皆保険制度として国民は何らかの公的医療保険に加入することが義務づけられています。
個人事業主の場合、一般的には市町村が運営している「国民健康保険」に加入します。事業の種類によっては、「国民健康保険組合」がある業種もあるので、その組合の保険に加入することもできます。
また、従業員を雇っていて、社会保険適用事業所として認められた場合、従業員も全員社会保険に加入しなければなりません。つまり、事業主は事業所として健康保険に加入し、従業員が「被用者保険」に加入する手続きをする必要があります。
2.公的年金
公的年金とは、社会保障制度として国が運営している年金制度です。公的年金には国民年金、厚生年金、共済年金の3種類があります。個人事業主が加入する公的年金は、基礎年金である国民年金です。
サラリーマンであれば厚生年金に加入しているので、受給する時には基礎年金である国民年金と厚生年金の両方を受け取れます。そのため、国民年金にしか加入していない個人事業主とサラリーマンとの受給額に差が出てしまいます。そこで、受給額を上乗せできるように国民年金に付加して加入できる年金が3種類あります。
付加年金
国民年金の定額保険料に月額400円の付加保険料を上乗せして納付することで、受給できる年金額を増やせます。ただし、国民年金基金に加入している場合は納付できません。
国民年金基金
国民年金とセットで加入することで、将来受け取れる年金額を増やせる公的な年金です。
確定拠出年金
付加年金や国民年金基金が公的な年金であるのに対して、確定拠出年金は私的年金です。企業や個人が毎月一定額の掛金を拠出し、運用しながら将来の年金として積み立てます。運用の結果によって、受給できる年金額が異なります。
3.公的介護保険
公的介護保険とは、介護に対する家族の負担を減らし、社会全体で介護を支えるための制度です。40歳以上が加入し、加入している医療保険に上乗せして納付します。国民健康保険に加入している個人事業主であれば、40歳になると国民健康保険料に介護保険料をプラスして支払うことになります。
4.労働保険
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。労災保険は、労働者が業務上や通勤によってケガをしたり病気になったりした場合に保険給付を行う制度です。雇用保険は、労働者が失業した場合に生活の安定と再就職の促進のために保険給付を行う制度です。労働保険制度として、2つの保険料を併せて納付します。一部の事業を除き、従業員を1人でも雇用していれば、加入する義務があります。
個人事業主が社会保険に加入する3つの条件
次は、個人事業主が事業所として社会保険に加入しなければならない条件を3つ挙げます。
法人の場合は従業員数にかかわらず社会保険に加入するのは義務
株式会社などの法人の場合は、従業員数にかかわらず社会保険に加入しなければなりません。たとえ事業主だけであっても、法人であれば強制適用事業所となるので、健康保険・厚生年金保険への加入が義務づけられています。
個人事業主の場合は4名以下なら加入義務はない
従業員が常時5名以上の事業所も強制適用事業所となるので、健康保険厚生年金保険への加入が義務づけられています。従業員が4名以下の場合は、健康保険・厚生年金保険への加入義務はありません。ただし、従業員の半数以上が適用事業所になることに同意して厚生労働大臣の認可を受ければ、任意適用事業所となり健康保険・厚生年金保険に加入することができます。
ただし労働保険は従業員数に関係なく加入する事
先にも触れたように、労働保険については従業員を1人でも雇用していれば、加入する義務があります。従業員とは、パートタイマーやアルバイトも含みます。加入手続きをしていなかった場合には、遡って保険料を徴収されるだけでなく、追徴金も徴収されることになるので注意が必要です。
個人事業主の社会保険加入期限と書類の提出先
次は、条件に当てはまり、事業所として社会保険に加入する場合の期限と書類の提出先についてまとめます。
要件を満たした日から5日以内に日本年金機構へ書類提出(健康保険・厚生年金保険)
健康保険・厚生年金保険については、強制適用事業所としての要件を満たした日から5日以内に書類を提出する必要があります。要件とは、先に挙げたとおり、事業所が法人の場合、従業員が常時5人以上の場合です。従業員が4人以下で希望により任意適用事業所として加入する場合は、従業員の半数から同意を得られたら早めに手続きします。
事業所の所在地を管轄する事務センター(健康保険・厚生年金保険)
健康保険・厚生年金保険の加入手続きをする際の書類の提出先は、事業所の所在地を管轄する日本年金機構の事務センターか年金事務所です。提出方法には、電子申請、郵送、窓口持参の3つがあります。
従業員を採用した日の翌日から10日以内に書類提出(労働保険)
労働保険については、従業員を採用した日の翌日から10日以内に手続きが必要です。
事業所の所在地を管轄する労働基準監督署と公共職業安定所(労働保険)
労働保険の加入手続きをする際の書類の提出先は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)です。書類によって提出先が異なります。
個人事業主が社会保険に加入する時に必要な書類
次は、事業所として社会保険に加入するときに必要な書類を挙げます。書類様式や記入例の掲載ページをリンクしておくので、参考にしてください。
健康保険・厚生年金保険新規適用届
事業所が健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になった場合に提出する書類です。
⇒日本年金機構「事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
従業員を雇用し、新たに健康保険・厚生年金保険に加入する人が生じた場合に提出する書類です。短時間労働者については、備考欄に該当項目があるので○を付けます。
健康保険被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
従業員を雇用し、新たに健康保険の被保険者となった人に被扶養者がいる場合や被扶養者を追加したり削除したりなど異動があった場合に提出する書類です。
⇒日本年金機構「家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき」
保険関係成立届
従業員を雇用し、保険関係が成立した日の翌日から10日以内に事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する書類です。以下リンク先パンフレットの10ページに記入例があります。
⇒厚生労働省「事業主のみなさまへ 労働保険の成立手続はおすみですか(パンフレット)」
概算保険料申告書
従業員を雇用し、保険関係が成立した日の翌日から50日以内に事業所の所在地を管轄する労働基準監督署あるいは都道府県労働局あるいは日本銀行(代理店などでも可)のうちのいずれかに提出する書類です。保険関係成立届を提出したあとに手続きします。上記リンク先パンフレットの11ページに記入例があります。
雇用保険適用事業所設置届
従業員を雇用し、雇用保険の適用事業所を設置した日の翌日から10日以内に事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に提出する書類です。保険関係成立届を提出したあとに手続きします。上記リンク先パンフレットの12ページに記入例があります。
雇用保険被保険者資格取得届
従業員を雇用し、被保険者として資格を取得した日の翌月10日までに事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に提出する書類です。保険関係成立届を提出したあとに手続きします。上記リンク先パンフレットの13ページに記入例があります。
個人事業主が社会保険に加入した時の負担の割合
最後に、社会保険の負担の割合について記載しておきます。
保険料負担は従業員と半分ずつ
健康保険・厚生年金保険については、事業主と被保険者である従業員とが半分ずつ保険料を負担します。保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。賞与についても標準賞与額に同じ保険料率をかけて計算します。保険料の詳しい計算方法については以下のページを参照してください。
労働保険については、労災保険と雇用保険で割合が異なります。労災保険は全額事業主の負担ですが、雇用保険は事業主と被保険者である従業員の両方が負担します。事業によって負担率は変わりますが、一般の事業の場合、事業主が1000分の6、被保険者が1000分の3を負担します。保険料の負担率と詳しい計算方法については以下のページを参照してください。
【まとめ】個人事業主は従業員5名以下にすれば社会保険加入は無し!
今回は、個人事業主が加入する4つの社会保険について、加入条件と負担額をまとめました。個人事業主は、もちろん一人の国民として社会保険に加入する義務がありますが、従業員を雇用した場合などは事業所として加入する必要が生じます。健康保険・厚生年金保険は、従業員が4名以下であれば基本的に加入しなくてOKですが、労働保険は1人でも従業員を雇用していれば加入する義務があります。加入条件を確認し、忘れずに手続きしましょう。